A2LiVE、STORM Festivalのサポートを受け開催された第4弾目のIMS Asia-Pacificは、アジアを拠点としている業界人が多く足を運んだ。イベントが開催されていた2日間で参加した人数はなんと700人を超え、24カ国以上の人々が集結した。CEOやエージェント、アーティスト、ブッカー、マネージャー、クラブやフェスのオーナーなど様々な分野で業界を作り上げていく人々が、60名ほど参加。そのうちの74%は、中国国内からの参加、18%がアジア以外の国々から足を運んだ人々、残りの9%がアジアから今後の業界の動きについて話しにきた人々だ。 

 

IMS Asia-Pacificは、Nielsen Dance Music Studyで幕を開けた。この研究では、ダンスミュージックがアジア各国のランキングチャートのTop5に入っていることを示すものだ。その中でも韓国が、一番「熱狂的なファン」だと発表された。逆に日本では、国内のランキングTop5にダンスミュージックは、属さないことも明らかに。2日目に発表されたChina Electronic Music Market Reportもダンスミュージックにおける需要が高いことを示した。なお、2017年中国国内の場合、ダンスミュージックは第2位の音楽ジャンルとして人々から評価されている。

 

-Nielsen Asia-Pacific Dance Music Study

  

オランダ出身のDJ/Producer Laidback Lukeもこのイベントの講演者の一人であり、今業界に旋風を巻き起こしている最先端機材について彼は語った。20年もこの業界でDJ/Producerとして経験を積んできた彼だからこそ語れることも多かったであろう。CMC Holdings、Zebra Mediaの副社長を務めるScarlett Liは、この地域で最大の投資会社の代表として次のように語った。「今では、デジタルミュージックは歴としたビジネスである。2020年までにこの業界は、有料配信サービスのみで20億ドル(約2300億円)ほどの市場になっていると想定されている。」

 

-THE DIGITAL STORM - Laidback Luke

 

アジアの音楽業界において需要がとても高いダンスミュージックを今後どのように継続させるかが、1日目に注目された重要なトピックの一つだ。Supermodified Agency Robb HarkerやYETI OUTのTom Bray、elrowのMatthew Hoagなどが舞台に上がりメインストリームのダンスミュージック、アンダーグラウンドのダンスミュージックについて語った。Tom Brayが、中国における興味深い現状を発表した。「中国でメインストリームかアンダーグラウンドかの区別はどうつけるか知っていますか?それは単純で、チャートやラジオなどで露出されていないトラックは、アンダーグランドとみなされている。メインストリームな要素が揃っているトラックでも、チャートやラジオに露出されていない場合、人々はアンダーグランドと区別する。」今後、さらに市場を発展させるのにおいて重要になってくるのは、「think local, book local」というローカルから物事を発展させていくことだと結論が出た。これは、海外でも同じことが行われていたわけで、今急成長しているアジアも同じ道を歩まなくてはいけないということであろう。

  

-Nature vs Nurture - the underground in Asia-Pacific

 

ブラジルからの新星として急成長しているAlokは、特に中国の市場に対して「中国へと入り、ファンベースを作るのには、時間がかるのは理解している」と言う。ダンスミュージックベテランのHowie Bは、中国のアーティストMickey ZhangとWHAIに対して、「言語は、壁ではない。フリーダムなんだ。別々な環境で育ってきたからこそ新たなクリエイティビティが生まれるんだ」と勇気づける言葉を贈った。Laidback Luke、Unity、Krossesは、「2017年の今の世界だからこそインターナショナルアーティストとコラボすることで多くのことを学べる。前までは、コラボしても実際にスタジオに入って意見を交わすことはとても難しかった」ということを解説した。さらにKrossesは、今のテクノロジーがあるからこそ、物理的に別の場所にいても一緒にスタジオに入りプロダクションできることを強調。

 

イベント初日は、元Swedish House Mafia、現Axwell ^ Ingrossoとして世界中をまわり活躍しているSebastian Ingressと彼のマネージャーAmy Thompsonが考えるアジアに対するアプローチで終えた。「世界で活躍しているアーティストや業界人はよく『アジア』をひとくくりとするが、僕はそう思わない。自分のセットも行く国によって変えるし、一つ一つが実際全然違った市場なんだ。」今、Axwell ^ Ingrossoとして活躍するSebastian Ingrossoは、この場を借りて中国のタレントKikiとコラボした”Sun is Shining”を発表。さらに、Thompsonは、メジャーレーベルはローカルの人材を無視して、彼らとしっかりコミュニケーションが取れる環境が整っていないことに疑問を抱いたと述べる。

 

-Axwell ^ Ingrosso keynote

 

Pranitan Phornprapha、タイのプロモーション会社CEOは、今後アジアのみならず世界的により環境に優しいフェスを行うための方法論やそれを実現するには超えなくてはいけない難点について語った。「自分でフェスを立ち上げる際には、必ず他の人のデータに頼るのではなく自分で市場調査を行い、自分でデータを収集するのを勧める。そのデータは、嘘をつかないからね。」

 

Warner Music所属Bart Coolsは、「今のアジアは、チャンスに溢れている。アジアの市場は、世界的に見てこのダンスミュージック業界を大きく成長させてくれるに間違いない」と述べる。

 

-Keynote address - Bart Cools

 

2日目には、A2LiVEでディレクターを務めるEric Reithler Barrosを始め、日本の芸能界を牽引するAvex Entertainmentでプロデューサー兼マネージャーを務めている宇野正展、Sony Musicのエレクトロニックミュージック部署のディレクターRyan Wilson、Hummingbird Music CEO Tan Changが、アジアのレーベルはどのようにロカールタレントを発掘し、それをどのように世界へ発信していくのかを熱く語った。

 

“Assessing Market Value”を題材とした講演では、マネージャー、ブッカー、エージェント、プロモーターがアーティストフィーやアジアでの市場価値に関して口論した。中国を拠点として活動するNet Ease Cloud Musicに所属するJason Swamyが、今のアジアのプロモーターの現状を「一番最初に金額を出した人が負ける世界だよ」と述べると、それに対して世界的スーパースターTiestoのマネージャーを務めたAndrew GoldstoneやParadigm Talent AgencyでブッキングエージェントをしているCody Chapmanが、「それは市場価値を破壊するものである」と解説。この現状を改善していくことに着目した講演となった。

 

-Assessing Fair Market Value - Artist Fees in Asia-Pacific

 

このイベントでは、A2LiVEのCEO Eric Zhoやエージェントとして業界を牽引するParadigm Talent AgencyのMatt Rodriguez、中国で投資家として活躍しているCMC Holdings、Zebra Media 副社長Scarlett Liなど、すでにアジアの市場で活躍されている方々やこれからさらに市場を拡大させるために活躍される方々が知恵を絞った。今後のアジアにおけるフェスの激戦やローカルタレントの育成、アーティスト、マネージャー、エージェントの透明性のある関係性の構築など多くの重要なトピックでサミットを盛り上げた。Scarlett Liが、講演の最後にアーティストブッキングに関してこう語った。「アーティストをブッキングする際に必ずクリーンな取引を行うことをみんな意識掛けて欲しい。お互いしっかりとコミュニケーションをとり、双方が了承した上で契約を交わすのが当たり前。それを破るアーティストは、今後アジアでも世界でも活躍できないだろう。」

 

-Big Thinkers Big Picture

  

業界を分析したディスカッションにより、様々な意見が飛び交ったほか、この業界を牽引するトップアーティストLaidback LukeやRave Radio、Unity、Pioneer DJ、Point Blank Music Schoolなどによる最新のデジタル技術の講演も多くの参加者の興味をそそった。

 

IMSの共同創設者でもあるBen Turnerは、最後にこう語る。「今回のIMS Asia-Pacificは、アジアを拠点としている業界人を起点に、以前よりさらに深く入り込んだ、価値のあるサミットになった。今アジアで巻き起こっているダンスミュージックの旋風をこれからも継続させるために業界人が試行錯誤し、多くの意見が取り上げられたほか、今後業界のバランスを取っていくために重要になってくるアンダーグラウンドシーンの開拓や進化も一つの重要点として注目されている。さらに、重要な点としてあげられたのは、アジアに適したファイナンスの使い方やより多くのオーディエンスとコミュニケーションをとり需要のあるものを提供し続けることだ。僕らは、今後アジアの市場をより発展させるために価値のあるサミットを開催できたことにとても満足しているし、今後がとても楽しみだ。」

 

IMS Asia-Pacificは、今年で4年目を迎えアジアではダンスミュージックにおける最も重要なサミットにまで成長した。このイベントで、今年のIMSカンファレンスも幕を閉じ、また来年世界中で開催されるのが待ち遠しいと多くの業界人が期待を高めている。

 

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