EDM業界の最大の論点のひとつといえば「ゴーストプロデューサー」の存在であることは間違いない。

通常ヒット曲を生み出すには数日~数週間、長ければ何ヶ月もスタジオにこもり頭の中のビジョンやアイデアを形にして発表するために自分と格闘することとなる。

なぜゴーストプロデューサーを使うのか?そして彼らがあなたの音楽キャリアにどのような影響を与えたり成長させてくれたりするのだろうか?

 

 

ゴーストプロデューサーを容認するアーティストの多くは「常にスーパースターでいることの価値は、自分たちがどんな音楽を演じるかよりも重要である」としている。

逆に批判的なアーティストは「ゴーストプロデューサーは音楽の本質を破壊し、ファンを騙してアーティスト本人が作品の全ての役割を担っていると信じ込ませている」と反発する。

実際は、ゴーストプロデューサーの活躍により、多くの人気アーティストが安定的にヒット曲を量産しており、

これまで幾多のアーティストがはまってきた落とし穴を避けられるようになっている。

それはファンの好みの変化である。これによりダンスミュージック業界の競争はより激しいものになっている。

そして今日の飽和したマーケットの中で圧倒的な成功を収められるDJとは、マーケティング手法をマスターし最新のトレンドを追うことのできる人間である。

 

 

『万能であること』

 

どんな人気DJでも、一度作り出したサウンドや過去のサウンドは、もはや最近の音楽トレンドの中ではもう流行らない時代がきている。

ここ20年の間に、Tiëstoがトランスからビッグルームへ、AviciiがプログレッシブハウスからEDMへ、Marshmelloがトラップからポップスへ転向している。

ジャンルを変えることなど容易いアーティストもいるが、そうでない場合の方が多い。ここでゴーストプロデューサーの出番である。

各サブジャンルにそれぞれ強いプロデューサーがいる。

もしあなた自身の名義で彼らの作品を出せば、その時の音楽トレンドを熟知したアーティストとして注目されるだろう。

 

 

『VORWERKの例』

 

Maarten Vorwerkはアルバ(西インド諸島にあるオランダの自治領)を拠点に数十年ダンスミュージックシーンで活動し続けているオランダ人プロデューサーだ。

いくつもの異なる名前やスタイルで、手がけた全作品数は400曲を超える。

彼の最初の成功はジャンプとハードスタイルだった。その後、彼のキャリアは主にEDMにおいて他のDJに曲を提供することになっていった。

最も大きかったのはJeckyll & Hydeの‘Freefall’とQuintinoとの‘Epic’のヒットだった。

 

 

 

1989年以降オランダのトップ40の1位をとったインストゥルメンタル作品はこの2曲のみである。

多くのトップDJはMaartenをゴーストプロデューサーに起用しており、彼よりも評判の良い人間はめったにいない。

彼自身はこの話題が現在のように業界のタブーになるべきではないと考えており、We Rave You誌にこう語っていた。

 

「僕は自分が音楽プロデューサーであることについてはかなりオープンだ。これについてそんなにセンシティブな話題だとは思ってない。もう16年もやってきてるしね。

これを機に明確にしておきたいことがあるんだけど、ゴーストプロデューサーのことを、名前もクレジットされないとか、アーティストほどフィーチャーされない上にお金も全然もらえない、と言う人がいるけどクレジットには残るんだよ。

読者の人が個人的にどう思うかは任せるけど。このデジタルの時代で誰が何を作ったかなんて簡単にはわからない。

昔はCDを手にとって裏を見れば書いてあったけど、今は違う。だから最近は、お気に入りのアーティストが実は曲を作ってなかった、って気づいた時に困惑してしまう人がいる。

裏切られたって思ったりもする。それでもやっぱり、こういうことは別に全く新しいことでもないし、あらゆるクリエイティブ分野で普通に行われていることだって認識しておかなきゃいけないと思うんだ。

Rihannaみたいなスターだって(一部を除いて)自分で作詞作曲してプロデュースしてるわけじゃないとかね。」

 

 

『金銭的な利益』

 

 

 

今や1公演で1万~10万ドル稼いでいるDJも存在する一方で、Spotifyで得られる標準の収入は1再生ごとに0.005ドルである。

(これは現在最も多くの音楽ロイヤリティ収入の元となっている)

100万再生で5000ドルだが、これをレーベルや他の関係アーティストで分配して諸コストを引いたら、手元に残るのは500ドル程だ。

もし、80曲同じような曲を作れば1年で4万ドルにはなる。多くのゴーストプロデューサーにとって大物DJに付いて曲を作るのが唯一安定収入を得る方法だ。

ロイヤリティ収入だけで食べていくことは単純に不可能である。

 

最近では、ゴーストプロデューサーは、変化し続ける音楽産業と需要の産物であると考える人が多い。

DJは良いレコードを出し続けながら過酷なワールドツアーもこなさなければならないプレッシャーを、ゴーストプロデューサーの起用によって少しでも緩和できるだろう。

 

「この問題についてはたくさんの誤解があるみたいだ」と、2015年のTOP 100 DJs NO.1に輝いたDimitri Vegas & Like Mikeは言う。

 

 

「時々アーティストはミキシングや作曲や細かい作業を手伝ってもらったりするよ。

EDMや音楽に限った話じゃないけど、極端に言えば、もし人に手伝ってもらったことで完成作品がより良いものになったら、みんなまた同じことやるでしょ。

でも大事なのは、関係した人がきちんとクレジットされて仕事に見合った報酬をもらえることだけどね。」

 

現代では、周囲の意見や議論をうまく切り抜けてアーティストとして自身を差別化して売り出していくのはこれまでになく難しい。

(批判はされているが)ゴーストプロデューサーがジャンルを超えたサウンド作りや、もっと大きなマーケットへ進出を手助けしてくれるかもしれないのだ。

 

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