2018年7月にDJ MAGで、ブースでストリーミングを使うことがDJ文化を変容させることについての記事を出した際、こんなことを書いた:

プロデューサーの報酬が適切に払われていないということは公然の秘密である。正確な数字はわからないが、エレクトロニックミュージック協会(Association for Electronic Music)によると、あと100万ポンド(約1億3千万円)が正しく分配されるべきではないだろうかとしている。業界にとって気の遠くなる数字だ。

ストリーミングなどにおいてこうした推測は決して誤ってはいなかった。10月のADEでの発表によれば、BeatportはDenonの協力を得て、600万もの楽曲をDJのソフトやハードウェアから直接かけられるようにするという。

SoundCloudも、Serato,やVirtualDJなどのソフトウェアのユーザーに向けてプレイリストを公開している。

 

ストリーミング各社は、やっとのこと、世界のパフォーマンスライツ機関(PROs)がDJとプロデューサー達に相応の支払いを負うべきだという事実に大きく傾き始めた。

理想の仕組みはこうだ。Shazamのようなメタデータ技術を使用し、直接クラウドからストリーム再生された音楽が、自動的にPRS(UK版PRO)や以下に言及するようなシステムとリンクさせる。

そしてリアルタイムで、その曲がプレイされたクラブやフェスの情報と共に記録され、世界中のどこのどのDJのショーであっても、権利者(例えばトラックの制作者など)が再生数ごとにお金を受け取れるようにする。

 

理論上は簡単そうだが、事実はそううまくはいかない。おそらく不可能だろう。しかし収入を得るという点では、DJもプロデューサーもレーベルもこうした議論の一部には合意している。

この後もう少し細かく説明するが、その前に、「なぜ私がそんなことを気にしなければいけないのか?」と、おらく疑問に思っている方もいることだろう。

ロイヤリティなんて大手レーベルやラジオ放送、毎月何百再生もあるビッグアーティストの話だ、と思っているだろうか?

もしあなたが、いくつかのKRKと不正コピーのAbeltonでできたようなホームスタジオを持っていて、地元のクラブで週末にプレイしているDJだったら、PRSなんて遥か遠い存在だと思っていることだろう。 

これがなぜ間違ったアプローチなのか、なぜあなたが本来得られるべき収入を自ら断っていることになっているのか、を説明するためには、パフォーマンスライツ機関PRSやPROsの仕組みやDJとの関係、そしてあなたのようなDJやプロデューサーが受け取るはずだった年100万ポンドもの大金が間違った人へ流れている理由について理解する必要がある。

 

 

「Creamfieldsなどのメジャーなエレクトロニックミュージック系フェスティバルでは1セットリストあたり平均250ポンド(約3万3千円)に相当する」

 

・ロイヤリティの支払い

PRSウェブサイトによると、彼らは「メンバーには、彼らの作品が演奏、放送、ストリーム、ダウンロード、公の場で再生、もしくは映画やテレビで使用された際、ロイヤリティを支払う」とある。

大変シンプルだが、これがDJとどう関わってくるか?キーワードは「公の場での再生」である。ソングライターやバンドがライブをするときは、基本的に自分たちの音楽を演奏する。

彼らは公演に対して料金を受け取る。しかし、彼らがPRSに参加したら、また別の料金も得られるようになる。

なぜなら、彼らの音楽は「公の場で再生」され、彼らはその曲の作者だからだ。(公演の規模によって価格は大きく異なる)

 

DJの場合は、少し異なる。理論上は、毎回セットごとに、DJ(もしくは代理の誰か)は書類に何をプレイしたかを書いたり、PRSのサイトに終わったセットリストを提出したりすることになっている。

クラブではだいたい1セット10ポンド(約1300円)となる計算だ。ダンスミュージックのフェスなら、PRSの公式料金表にもよるが、チケット売上の約3%はロイヤリティの支払額に相当すると言われている。当然、開催日数や時間、ステージ数で割られることにはなる。

 

例を出してみよう:1日限り、キャパシティ3万人のフェス、チケット料金は6500円で売り切れ:

 

30,000人 @ 6500円 = 1億9500万円 チケット売上

1億9500万円 x 3% = 585万円 PRSの料金

ステージ4箇所 = 146万2,500円 1ステージあたり

1ステージ18時間の公演 = 81,250円 1時間あたり

1時間あたり平均12曲 = 6,770円 1曲あたり

 

とてもざっくりした計算ではある。ステージが均等に割れることはない(サイズや各キャパシティが異なるため)が、何の数字について話しているかおわかりいただけるだろう。

曲は必ずしもレーベルと契約してなくてもいい。PROに登録さえされていれば、外国でやってもプレイごとに作曲者にお金が入る。

 

2014年のキャンペーンの間、PRSは「GladeやCreamfields (およそ171セット公演) のようなメジャーなエレクトロニックミュージックのフェスティバルの平均セットリストは平均250ポンド(約3万3千円)に相当になり得る。つまり、この2つのイベントだけで、85,500ポンド(約1,111万円)が然るべき作曲者に支払われいないことになる。」(これらの数字は少し古くPRSは現在更新した数字をだそうとしている最中)

毎週末、とくに夏の間、世界中で開かれているフェスティバルの数を考えてみてほしい。

収益源の選択肢が限られているため、多くのプロデューサーが生計を立てるためにDJになることを余儀なくされている。PRSからの収入はあるが正しい人間に支払われていない。そしてPRSもそれを認めている。

 

どうしてこうなったか理解するには、PRSがどのようにデータを収集しているかを知る必要がある。ひとつは、Maritzという第三者機関からクラブにエージェントを送る方法だ。

彼らエージェントは年間約500のクラブを2時間ずつ回って、その間プレイされている曲が何か書き取るのだ。PRSはまた、クラブでの調査と同じようにラジオ局が何を放送しているかも分析し、この2つのデータを使って類似データを作ることもある。

これは他に適切なレポートがない場合に使用される。

 

 

「Creamfieldsでは27%しかセットリストが提出されなかった。 ReadingやLeedsでは95%だったのに。」

 

なぜこのようなことをしているのか、Greg Marshall(Association for Electronic Music (AFEM)のゼネラルマネージャー)によると「その一連の類似データのセットから、ラジオ局の放送とエージェントが収集したクラブのセットリストとどんな”似た”ものがプレイされているかを調べている。ただ、ラジオ放送は、ラジオゆえ、メジャーな曲に偏る傾向がある」と説明している。尚、データに使用したラジオ局や公演は公開されていない。

 

例えば、今ラジオで流れている曲が前回いつクラブで聴いたか思い出せないことがよくあるだろう。

Marshall氏によると「スペインの音楽認識技術のテック企業BMATの最近の研究で、スペイン国内の200以上のラジオ局と100以上のクラブをモニターし、クラブでプレイされた音楽の60%はラジオではかかっていないことがわかった」という。昔のPRSのデータ収集はもっと不正確だった。

BBCラジオのプレイリストとアルバムトップ40ランキングから、イギリスのクラブで何がプレイされたかを予測したりしていたのだ。

 

John TrueloveはイギリスのDJ兼プロデューサーだが、彼がこのデータ収集の方法について90年代中頃に知った時、恐ろしくなって「ポリシーはよく調べて推進」しようと決意した。

彼は今Truelove Publishingを経営しており、PRSのボードメンバーである。彼が掲げるメインポリシーは、PRSにDJやバンドからセットリストを受け取るようにさせることだ。

DJはどのイベントでも何の曲をプレイしたか申告することができ、PROsはその実際のデータを使用できる。

クラブやラジオから取ったデータと合わせればもっと正確な統計が取れ、クラブカルチャーの状況がわかるはずだ。

 

・セットリスト

理論上、セットリストを書き出きだすことが確実で、結局それが安定したやり方だ。

ロイヤリティ収入による個人の利益がかかっていると知っていれば、ロックバンドはショーの後、喜んでセットリストを書くものだ。しかしDJにとってこれは難しいかもしれない。

他人の曲をかけてもDJの利益につながらないのであれば、セットリストをきちんと書く必要がないからだ。Truelove氏は「ギグによってセットは変わるため、エレクトロニックミュージックには合わないのではないか」とは言う。

「だいたい、セットリストを記入するようなマネージャーはいないし。そしてそのセットリストを提出すること自体、DJ側の既得権益はほぼない。彼らはレパートリーのごく一部しかプレイしないからだ。私の課題はそれをどうやって克服するか、どうしたらDJ達がそれをやらずにスムーズに活動できるかということだ」。

 

Mark Lawrenceは2014年までPRSのディレクターで、現在はBlack Rock Publishingのディレクターだ。

彼は2014年の監査の際、「Creamfieldsではたった27%のセットリストしか提出されず、それに対しReading FestivalやLeeds Festivalでは95%だった」と見積もっている。

PRSのダンスミュージック部門の顧客管理マネージャーAsh Howardは、2018年のCreamfieldsで「セットリストの収集担当は230人のDJに直接アプローチしたが、ほとんどは反応がなく、たった10ほどしか集まらなかった」と今後の懸念を表した。

 

これでは、ダンスミュージック業界がオウンゴールを入れ続けているようなものだ。

PRSのデータ収集システムがクラブカルチャーに合っていないと指摘をするのは簡単だが、全クラブの全DJががそれぞれのセットリストを記入させるために担当者を置いて確認するというのも現実的ではない。

管理も不要で、金銭的なインセンティブも出さずに、書類を揃える仕組みを作るのは難しい。

いくら親切なDJでも、パーティーの中から抜け出して紙の書類を書いてくれるなんてことは考えにくい。

10,000トラック以上のコレクションの中から長時間プレイすることもある中で、いちいち全曲思い出せるDJもいないだろう。

  

(後半に続く)

 

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